中国春秋時代の思想家である老子(ろうし)は「器の中に空間があってこそ器としての働きをする」と述べました。この言葉は人体をただの物体ではなく意思を持つ生物体と捉える上で示唆に富んでいます。
私達の体を構成する骨格や、筋、消化器、呼吸器、循環器など様々な器官を細胞や組織レベルから覆い、接続させ、三次元的なネットワーク機能を形成している「ファシア」。医学の歴史の中で、長い間形態のみが認識されていましたが、近年、このファシアの機能に目を向けた研究が世界的に急速に発展しました。その中で、ファシアの機能が慢性的な痛みや痺れなどの症状の原因部位となりうることや、運動のパフォーマンスに影響することなど、様々な機能的な知見が明らかとなっています。つまり、ファシアは組織や器官の間に形態として存在しているだけの無用なものではなく、私達の健康維持に深く関わるものであり、人が生命活動を維持するために無くてはならないものと認識されています。まさしく老子の言葉の通りです。
当会は、ファシアの機能を高めるトレーニング理論を確立させ、人々の健康と福祉に資する事を目的としています。前述のように、身体で重要な役割を担う構造物でありながら、いまだその全貌が解明されていないファシアについて、会員となられる皆様と共にその機能を高めるためのトレーニングを学び、研究し、議論し合える環境であり続けながら、学術団体としての社会的責務を果たしていきたく考えております。そして、会員皆様の先に存在する患者様や身体に悩みを抱える方々のお悩みがひとつでも多く解消されることを心より期待しています。そのために当会の運営に当たって参ります。

一般社団法人 日本ファシアトレーニング研究会
代表理事 浅賀 亮哉

「当初は見向きもされていなかったものが、後に非常に重要なものだと判明した」という話は科学の世界では沢山あります。例えば、アレクサンダー・フレミングはその優れた観察眼から、多くの人が単なる汚染物質と認識していた青カビに価値を見出し、「奇跡の薬」と呼ばれることになるペニシリン発見の糸口を掴みました。また、ニコラウス・コペルニクスは「太陽が地球の周りを回る」と誰もが信じて疑わなかった時代に、綿密な観測結果と科学的思考をもとに地動説という真理にたどり着きました。このように、最初は価値がないとされたものや考え方が、後に科学の常識を覆し、私たちの世界観を変えてしまうことは科学の歴史が証明しています。
今、世界の科学者が「ファシア」に注目しているのは、長らく単なる「包み紙」程度と見なされていた組織が、実は身体機能の核心的役割を担っていることが明らかになりつつあるという、フレミングやコペルニクスの発見の再来に似た側面があるからかもしれません。
当会は、フレミングやコペルニクスの姿勢に倣い、ファシアに対するトレーニングの在り方を科学的な手法を用い研究し、方法論を確立させ、社会に貢献することを目指しています。
この目標は、私達理事だけでは達成できません。過去(あるいは現在)の常識に捉われない「眼」、豊かな「創造性」、そして無限の「好奇心」をもった仲間。このような仲間がいて、初めて目標達成に向けた道筋が見えてくると私達は確信しています。
当会は、常に会員皆様とともにありたいと思っています。資格の有無、専門性、知識量などに不安を感じる必要はありません。前述の「仲間」に該当する方ならば誰しもが仲間です。沢山の仲間ととともに目標に向かい邁進する日々を、楽しみにしております。

一般社団法人 日本ファシアトレーニング研究会
理事 永木 和載