上記に示す「体力」を高めるための手段が「トレーニング」であり、体力の身体的要素を構成する各器官の形態や機能は、骨や筋、神経や血管、リンパや脂肪など様々な体組織に由来しています。そして、これらの体組織を覆い、接続し、情報伝達を担う線維性の立体網目状組織5)として、全身に存在しているのが「ファシア」です。つまり、ファシアの機能は身体要素としての行動体力と防衛体力の維持・向上に必要な基礎となる部分であり、ファシアの機能低下が身体的要素から見た体力の低下や、それに伴う疾病発症の原因となり得ることが予想できます。また付随して精神的要素から見た体力への影響も生じる可能性もあります。したがって、ファシアは体力の低下を予防すること、または低下した体力を回復させるためのトレーニングを行う上で重要視すべき構造物であると考えています。

既存のトレーニングの定義では、体力を高めるために身体運動を行うとされています。これは、筋骨格系や呼吸器系、循環器系など、トレーニングの対象を器官系としたものです。

当研究会では、各組織や器官が器官系として機能するためのネットワーク形成を担うファシアに視点を向け、体力向上の手段として「ファシアトレーニング」を提唱しました。そして、このファシアトレーニングを「体組織への機械的刺激に対する人体の適応性を利用し、ファシア(筋膜や神経・血管周囲の結合組織、脂肪など)の持つ機能特性の改善を期待する手段や過程の総称」と定義しています。つまり、ファシアの機能特性の改善を期待する機械的刺激であれば、運動療法に限らず、対象者にとって受動的である徒手療法や、物理療法における電気刺激なども含め、全てがファシアトレーニングに該当します。


ファシアトレーニングは、一律の方法で全ての人に適用するものではなく、患者さんや対象者が置かれている段階や状況に応じて柔軟に方法を変えていくことが重要です。例えば、受傷直後や発症直後といったマイナスの段階では、医師の診断や治療を基盤とし、理学療法士や作業療法士、言語聴覚士などのリハビリ専門職が中心となって、痛みの軽減や機能回復を優先した介入が求められます。一方、日常生活を問題なく送れるゼロの段階では、鍼灸師や柔道整復師、整体師、ボディワーカーらが身体の調整を行い、姿勢や動作の質を高める関わりが有効となります。さらに、プラスの段階に進み、パフォーマンス向上を目指す人々に対しては、アスレティックトレーナー、ヨガやピラティスの指導者、ストレングスコーチやパーソナルトレーナーが、運動機能や身体能力を引き出す支援を行います。すなわち、ファシアトレーニングは多職種が連携しつつ、段階に応じた役割分担のもとで多様な方法をとりうる点にこそ、その可能性があるといえます。

参考文献

  • 平凡社編:世界大百科事典 第2版.平凡社,東京,1998.
  • 猪飼道夫ほか: 体力と身体適正. 体育科学辞典, 第一法規出版, p100, 1970
  • 厚生労働省 e-ヘルスネット:「行動体力」https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/exercise/s-04-004.html(参照2025-08-28)
  • 猪飼道夫: 日本人の体力: 心と体のトレーニング. 日本経済新聞社, 107P, 1967
  • 一般社団法人 日本整形内科学研究会:公式ホームページ.https://www.jnos.or.jp/(参照2025-08-28)